斉藤上太郎氏対談

こんにちは僕らのゆめの高橋です。

お店で配布しているブックレット「culture」。

ほぼ毎月発行しています。

それを続けて2年過ぎ3年目に入ります。

いろんなことを調べたり取材に行ったり写真撮ったりブックを作り始めてからとても仕事が増えました。

でもなんか新しいことに挑戦するのは楽しいので心地よい毎日を過ごしております。

さて今回は過去18冊のバックナンバーからお気に入りの記事を丸っとブログに転送します。

 

こちらの記事は2016年8月に弊社川口とトップデザイナーの斉藤上太郎の対談を企画し掲載しました。

是非一度ご拝読いただければ幸いです。

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現代着物を牽引し続けるトップデザイナー斉藤上太郎氏(株式会社三才代表)と、独自の路線で着物文化を広げる弊社代表 川口による対談。メーカーと小売の違いはあれど、共に着物文化に対し熱い思いを持つ二人の考える着物の意義と未来について。

川口:よろしくお願いします。

斉藤:はい、よろしくお願いします。

川口:「僕らのゆめ」を立ち上げて8年目になるんですけど、もともと僕が着物屋さんになってすぐの頃、鶴とか亀とかの訪問着とかそういうのを高齢の方に販売していて、入社して半年でやめようかなと。そんな時に上太郎さんの着物を見て「むちゃむちゃオシャレやん!」って思って、着物屋さんまだ続けられるわっていう気持ちになったんですよね。

斉藤:ほんまなん?

川口:ほんまなんです、それが(笑)。

斉藤:ありがとうございます(笑)。

川口:だからずっとやりたいなと思ってた上太郎ブランドの個展をうちで出来るっていうのはすごく嬉しくて。

斉藤:ありがとうございます(笑)。

川口:新入社員の時に、「こういうおしゃれな着物があるなら俺もやっていける」と思ったのが一番で今まで続いています。

斉藤:うちは僕で3代目になるんで。今年で83周年か84周年か?まあ代々やっていてね。初代も親父もどっちかいうとその時代、その時代のイノベーターみたいな新しいことをしてきたんで。着物そのものは伝統的で民族衣装ですから、変わらないものでしょうけども。でも平安時代と江戸時代の着物も全然違うし、江戸時代と現代の着物もまたね、少しずつ変わってきている。僕らはその変わり目の新しい物をどうして造るかっていう事が大切だと思うし、それやってないと僕らも面白くなくなってくる。俗にいう着物屋さんの一昔前のちょっとご高齢のマーケットに合わすモノ作りをしてもねえ。

斉藤:やっぱり発信型、提案型の商材じゃないので。それは僕らも同じやな。やっていてそういうものを作っていくだけでは面白く無いと思ってるし、やっぱりクリエイションしていかないとつまらんわね。そこでは同じような感じやったんちゃいます?モノが変わると立場が変わるけども、同じような感覚やったんとちゃうかなと。その時っていくつやったっけ二十歳?

川口:着物屋さんになったのが23歳ですね。だから15年位着物屋で。

斉藤:でもなんで最初着物屋になったん?

川口:最初公務員試験の勉強してたんですよ、本当は。

斉藤:公務員も合わへんやん。

川口:今の印象と全然違って僕、結構根暗な子だったんですよ、全然社交的じゃなくて。

斉藤:もしかしたら根暗やったかなって感じはちょっとするよね(笑)。

川口:ははは。だから営業できんのかなって思ってたんですけど。必殺仕事人が好きだったし、1社だけ受けたんですよ。そしたら受かっちゃったんで、勉強する気がしなくなっちゃって。「着物も良いよね」みたいな感じで着物屋さんに入りました。やっているうちに着物って面白いなって本当に。

斉藤:そうね、僕もそうやったね、「着物ってどうなん?」ってのは。僕が入ったのは僕自身が二十歳の時だったから、問屋さん行ってもおじさんばっかりで若い男の人居ないし。面白いものを発信してもわかってもらえそうもないし。けどやっていくうちにだんだん面白くなってきたね。

川口:「文化を繋いでいく」っていうのがうちのテーマで、もうちょっと20代30代の人に着てもらえるようなおしゃれな着物やシーンをつくろう、作っていかないと多分そこの層は増えないだろうなと。

斉藤:美意識とか価値観そのものが変わってきている。昔は「地味」って言葉しかなかったけど、今は「シック」って言葉があるように、これがかっこよくてこれがダサいとか、これが素敵でそうじゃないとかいうのはやっぱり一昔前と変わってきている。着物というのも時代時代のそういう空気感っていうのは捉えていかないとなかなか難しい

斉藤:着物屋さんイコールもう古臭いもんやっていうイメージがあるからね。そこに新しさを求める人も居ないし、求めても仕方ないねっていうくらい着物業界は発信してなかった。必然として僕らのゆめさんなんかすごい面白いというか楽しいというか、そういう感じになったんとちゃうかなと。海の物とも山の物ともわからへん言うか、なんかいいんちゃう逆に、見たことない感じ。

川口:着物屋さんなのに何してるんだろうっていう。お客さんが常に驚いてくれるお店づくりとか、着物着て楽しめなきゃ意味が無いと思うんで。お客さんとお酒一緒に呑んだりとか、遠足一緒に行ってみたりとか。素敵な着物を着てもらうお客さんの入り口としての役割を担う必要がある。まずは着物の敷居を下げるじゃないけど、着物って着たらオシャレだし楽しいよねっていう部分を作っていかないと。その活動の中で、海のものか山のものかよくわからない状態になってるんですけど(笑)。

斉藤:それは最初のうちはね。それがだんだん「僕ゆめさんスタイル」みたいになってくるし、「僕ゆめさん流」とか「僕ゆめさん調」になってくる。そうなってきたらそれはしめたもんでしょ。

川口:しめたもんですねえ(笑)。

斉藤:他に似たようなお店なんかないし、真似しようと思ってもなかなかできないような感じ。ちょっとイッちゃってるくらいがちょうどいいんちゃう(笑)。

川口:ちょっとイッちゃってる(笑)。うちは突き抜けてやっていこうって思ってやってるんですけど、でもそれは上太郎さんを見てて、格好いいっていうか。突き抜けていかないといけないんだっていうかね。

斉藤:うちはもう完全に突き抜けていく感じだし、ますます突き抜けたいなと思ってる。でもやっぱり伝統的なこととか大人のお召し物っていうこともある。僕らのゆめのお客さんの方たちから60代の方までいらっしゃる。幅広いけどやっぱり感覚としては大人のお召し物だし、これは良し、これはダメっていうのはどっかにラインが有ると思う。「何でもかんでもやってまえ!」やと難しいし、そこのさじ加減がすごく難しい。そこはやっぱり気をつけなやな。気をつけながら「ギンギラギンにさりげなく」みたいな。まさに大胆にっていうかね。僕もやっていくべきやと思うし、そうやっていきたいなって思ってますね。

川口:ギンギラギンにさりげなく。そうかもしれませんね。どんな人に上太郎ブランドの着物着て欲しいですか。

斉藤:僕が言うと語弊があるかもしれないけど、「いい女」に着せたいね、ちょっと大人のお姉さん。かっこいい、セクシーっていう着物姿を作らなきゃダメやし、そういう集団にならなきゃいかん。木綿の浴衣とか、麻のざっくり感も悪く無いよ、悪くないけど、もうちょっとハイブリッドな感じの、もうちょっと都会的な女を作りたいなと。

川口:上太郎さんの着物はドレスって感じですもんね。ドレスアップって。

斉藤:芸能人の人も着物好きやん。海外でショーする人なんかは着物着るっていうし。じゃあ何着るのっていう。

川口 着物に関して詳しい人に相談すると時代錯誤な着姿になっちゃうケースもありますよね。格とかを尊重しすぎてコーディネートが残念というか。今の若い子はおしゃれに敏感なんで、着物がおしゃれアイテムっていう部分で捉えて着てくれる人がうちのお客さんには多いですね。ドレスの代わりみたいに着てくれる女の子っていうのはもっと増やしていかないと。

斉藤:そうだね、確かに。

川口:そういう人たちは、一番最初にやっぱり上太郎さんの着物、ファッションショーの映像とか見るとやっぱりみんな、「こんなおしゃれな着物あるの!?」って衝撃を受けます。

斉藤:ありがたいことだね。面白い柄とか色はね、みんな今までの作家さんももちろん作ってきてらっしゃると思うけど、なかなかやっぱりスタイルとして提案できない。今の時代はスタイルとして全体を発信しないとアカンし、それは着物と帯だけとかスタイルに関するものだけじゃなくて音楽とか、ヘアメイクもしかり、ショーをする場所も含めて、そこまでアンテナはってやらないとなかなか伝わらない。今の若い人らは敏感やから、何が古くさくて新しいかすぐ察知するからね。そういう意味ではやっぱりピンピンにアンテナはっておかないとリードはできない

川口:上太郎さんは毎年ファッションショーをやられるじゃないですか。毎年デザインして大変じゃないですか?

斉藤:大変やけど、物作るのは基本的にはそれが仕事やから。喜びとか楽しみを生むのに多少の苦しみがあるけど、結果としては喜びと楽しみやからそんなに苦じゃない。だからそれをうまく伝えて、素敵ねって言うてもらうのもそうやし、着たいとか着て歩いてみたいとか購入したいとかっていうところ。やっぱりそこまでいって初めて認めてもらうことやし。着物そのものは昔から「母から子へ」みたいなところがあるけど、僕の着物もそういうふうにあって欲しいとは思う。自分に投資する分、きちんと見合ったお返しをしないとやっぱり失礼だと思うし、お返しを出来る着物であったりとかコーディネートであるとか、アイテムを合わせたりだとか、それは発信する側の責任だと思う。きっとそれは立場は違えど僕ゆめさんも僕も似たような方向性だろうなと。わからないものを一生懸命わかれって説明するより、好きでしょ、かっこいいでしょってするほうが一番わかりやすい。どこに着ていくの、いつ着るのって言われるけども、鶴亀の着物の方がどこ行くの、いつ着るのだし、「本格派の着物」って言われるものは、もうすでに「本格派に着物好きな人」からすれば一番縁遠い着物になってる

斉藤:何が本格派かっていうのも、ちょうどリロードされる時代だしね。高級感とか価値観とか、そういうものも全部リロードされて新しく更新される時代めぐりやから、だから面白いよね。何が本格派かってのもね、着いひん着物が本格派かってのもあるし。やっぱり伝統とか文化こそ最新でないとダメだと思うし、古いものを古いままやるのは一番手抜きやと思うんでね。やってこられたものをそのまま出だすとかそれを貫くのが〝続ける〟とか〝つなぐ〟っていう意味じゃなくて、時代時代に応じて次の進化をさせることがつながっていくことだと思うんで。素直にそれに向かってやっているということだけなんだけどね。

川口 デザインはいつやってるんですか?

斉藤 よく聞かれるんだけどね。いつもやってるよ。新幹線の中とか工房に帰ってきたときとか。

川口 手書きでラフ書いてみたいな?

斉藤 せやね、全部アナログ。新幹線乗るときは揺れて書けないから、まあラフ程度で。ラフ書いたものをトレースする人がいたりとか、そういうアナログのスタッフはいっぱいいるから。

川口 アーカイブもいっぱいあるわけじゃないですか。

斉藤 アーカイブをいじることもある、確かに。色を変えたりとか、新鮮に思えばね。組み合わせ変えたりとかもしてるな。

川口 上太郎さんの世界観というか、色とか柄とか、色の使い方ってどこで磨いてるんですか。普段いろんなものを観ながらイメージして?

斉藤 そうそう、ファッション誌でも映画でも。音楽はダウンロードになったからなぁ。昔だったらLPでもCDでもジャケットがあってブックレットがあって、それに基づく世界観やん。音楽だけ、この一曲だけのダウンロードとかになってくると、なんかあんまり世界観感じひんから。詩をじっくり繰り返しは聞いてられんからね。音楽は聞くけども、このポエムにこう感銘受けたみたいなことは最近少ないなあ。やっぱり表現っていうと柄になってくるから直接的に目に入って感じるものが多い。

川口 なるほど。わかる気がします。逆に上太郎さん、何かないですか?僕らのゆめに対して。

斉藤 この冊子、毎月出してるんやろ?すごいことやってんなあと思う。僕らはファッションショーやってるやん。年に一回、その時間、その30分に場所を一緒にしないと発信が伝わらない。一瞬過ぎてすごいそれはジレンマがあって、やっぱり冊子とかペーパー物とか、Web上でもいいんだけど、残して行きたいなと思うし。雑誌に載せたらと思うけど、載せたい媒体も無いし、無いっていうことは自分で作らなあかんのかなってのがあって。新しい媒体は昔から作りたいって言ってるし、思ってるし。ようやってるよね。発信は大事だから、頑張って欲しいよね。でも毎月ってしんどいで。

川口 ブックレット始めた時に、仕事がやっぱり凄く増えちゃったんですよね。

斉藤 そらそうだよね。毎月やったら大変やで。文章やデザインは誰が考えてるの。

川口 高橋がやってます。本人は楽しんでるみたいですよ。お客さんが実際読んでくれて、良かったよ、悪かったよ、誤字があるよって。

斉藤 誤字がある(笑)。

川口 うちのやつは結構誤字があるんですよ。間違い探ししてもらうみたいな。最近は少なくなったけど。

斉藤 でもこういうスタイルブックは絶対いるよ。

川口 ありがとうございます。上太郎さんのお言葉で来年も続けていこうと思います(笑)。どうやらお時間みたいです。本日はありがとうございました。

斎藤 うん、楽しみにしてるで。こちらこそありがとうございました。

—–ここまで—-

いかがでしたか?

素敵な対談だと思いませんか。

熱い気持ちとビジョンを持ってこの業界を発展させようと微力ながら精進しております。

また支えてくださる取引先さんも素敵な人がいっぱいです。

これからも着物ファンを増やせるよう精進します。